ローマでコロセウムを見に、ホテルから歩いて行った。
突然目の前に老婆が現れた。
たたんだ毛布かカーペットのようなものを持っている。
すると、それをわたしの胸に突き付けてきた
物売りだと思い、それを避けようとする。
そうはさせじと、まるでキスをするように口をわたしの顔に突き出してきた。
わたしは身をのけぞらせざるを得ない。
その時、持っていた小さなバッグが一瞬軽くなったので、あわてて引き戻した。
突き出した毛布の下で、バッグをまさぐっていたのだ。
中のカメラを取ろうとした瞬間、バッグが軽くなったので、気が付いた。
カメラは無事だったが、どうしたものかと考えた。
老婆は小さな子供を連れていて、自分は観念したのか立ちつくし、子供たちに離れるように合図していた。
不潔そうな黒っぽい布をまとった老婆の濁った目を見ているうち、こちらの戦意も薄れてしまった。
近くに警官もいないし、面倒になったので、手を振って追い払った。
後で気が付いたのだが、ペンケースがなくなっていた。
多分盗った物は、小さな子供に渡していたのだろう。
だから子供を追い払ったのだ。
ペンケースはもらいものだし、中の筆記具も安物なので、諦めることにした。
ベルギーで、ある寺院を見に行った。
見学した後、外に出てきて、しばらくたたずんでいた。
すると、周辺で遊んでいたらしい少女が近付いてきた。
突然、新聞紙のようなものを胸に突きつけてきた。
わたしは前の経験から、体をそらしながら手のバッグに注意していた。
触ってくる気配がしたので、体を離し、バッグを手元に引き戻した。
「お前たちのやり口はわかっているんだぞ」というように、少女を見つめた。
すると、少女の表情に、年齢には似つかわしくない憎々しげな表情が浮かんだ。
少女は連れの妹らしい少女のそばに戻って行った。
状況を察した妹は、私に向かってアカンベをするような仕草をした。
姉は10才前後、妹は2,3才下であろう。
戯れに泥棒の真似をしたというよりは、常習者に思えた。
わたしは、他に被害者がでないようそこを離れず、彼女たちを監視していた。
やがて、彼女たちは日が悪いと諦めたようで、その場を離れて行った。
手をつないで帰っていく姉妹の姿は、どこにでもいる少女たちであった。